無題小説 その4

一応ね、と言って彼は話し始めた。
(まず始めに前提から言うと、時間は廻ってるんだ)
「廻る?」
(そう、廻る。簡単に言うと、時間って言うのは昔から将来に向かって一方通行に流れているんだけど、それが円形というか、始まりの端と終わりの端が繋がってぐるぐる廻っているものなんだ。未来はまだ始まらない過去で、過去はもう終わった未来。単純だろ?)
「…難解だ」
(まぁ、そういうと思ったよ。2回目を見る僕としては何もかも僕は僕に似過ぎているから軽く笑える部分もあるけど、まぁそういうことだよ。君もわかっているはずさ)
「何を」
(こうなるんじゃないか、っていう予感さ。直感で理解していると言っても良い。僕は、そう感じていたけど)
「さぁね、あるような無いような。もうそんな空想を夢見る子供でもないさ」
(一回人生を終えた僕としては、30歳じゃあまだまだ子供だけどね)
「…そりゃあ、希望の持てるお言葉で」
(まぁ、僕は烏丸達として普通に一生を生きて、人生を終えた。なのに、僕はその時まさに『生まれたんだ』。僕が気づくと、さっき天寿を全うして死んだはずの僕は見知らぬ病院にいて、今まさに子供が生まれようとしている、誕生の瞬間を目の当たりにしていたんだ。気づいてみると日付は僕の誕生日。その子は金森っていう家の長男で、名前は達って名付けられた…)
「……」
(…それから考えてみた結論としてはさ、何の偶然かはわからないけど、僕は自分の人生を、金森達という一人の男の人生をリピートする権利を与えられたらしい)
「くり返す?自分の人生を?」
(そう。たぶん、生まれてから死ぬまで。んで、今は2回目。やっと今年で30歳さ)
「…何が、何だか」
(まぁ、一回の説明で理解してもらえる自信はないし、君にもどれだけ伝わったんだか怪しいけれど)
「…わかった事にしておくよ」
(まぁ、僕もいろいろ考えてはいたんだ。ま、思いついたらその内喋るさ)
「…本当に僕?」
(そうだよ)
「誕生日は」
(4月8日。でも大抵春休みだったからお誕生日会が出来なくてあんまり好きじゃないよね)
「好きな色は」
(最初は緑。次に赤。今は…黒?)
「…そうだよ」
(ちなみにね、最期の方はまた赤が好きになってくるから)
「…。じゃあ…初恋の人は」
(サエコ先生だったんだね。僕、てっきりユリちゃんが最初だと思ってた)
「…なんなんだ、これ」
(ちなみに、エロ本の隠し場所は中学生の時にベッドの下に父親が買ってきた週刊誌の袋とじを隠したのが最初で、母さんに見つかってからは机の引き出しの一番下、一人暮らしの今は…クローゼットにあるダンボールにビニール袋で包んでる。厳重にさ)
「…僕の恥を晒すのはやめてくれ」
(僕の恥、でもあるんだけど)
「あぁ、わかったわかった、信じるよ。信じるからやめてくれ」
(甘いな若造。…今まで生きてたのに僕には気がつかなかった?)
「全く」
(そうか…。何で30歳の今になって『僕』がいる事に気がつけたんだろうね?)
「僕に聞かれても」
(まぁ、そうだね。神様なんてものがいるとしたら、一回問い正してみたいよ)
「…ご勝手に」
(ん…あぁ、あれ?)
「ん?」
(おかしいな。何か、違――――)
次の瞬間。
頭痛と、歯痛と、胃痛と、腹痛と、吐き気と、それらを含めて身体全部という全部に激痛が走り。
僕は意識が飛んだ。