夜の華 鋼の盾 第2幕 第三場
夜の華 せつなに散りゆくものとして。
鋼の盾 守るものを守るために。
いつか貴方は 何処かへ向かうの?
そして私は 流れていくの?
そして 彼らは 今日も どこかで。
第2幕 第三場 マリアとアウグスト ホテルの一室
ホテルの一室。こぢんまりとした部屋だが白い壁紙と質の良い家具が揃っており、上品な感じが漂う。大きな窓からは青い空が見える。アウグストは、部屋で一人タイプを打っている。
その日アウグストは部屋でタイプを打っていた。昼食も既に食べ終わり、午後の分と決めていた分の原稿も半分ほどが終了した時のこと。
コンコン、とノックをする音が聞こえて、アウグストは扉を開けた。
「何方ですか」
「私です」
「マリー。今開けます」
アウグストは錠を解き、扉を開いた。扉の前にいたのは、薄緑色のワンピースを着たマリア。
「入ってください」
アウグストはマリアを招き入れる。部屋のベッドに座るマリア。アウグストは部屋に備え付けてある椅子に座って、先程まで続けていたタイプを打ち始める。
「上手く行きましたか?」
アウグストの問いにマリアは
「はい」
と静かに答えた。それを聞いて、アウグストも静かに言った。
「これからしばらくは私達も休暇に入ります。それで、マリーも気に入っているようなのでこの町にしばらく滞在するつもりですが、どうですか?」
マリアは頷いた。
「私は構いません。エリーゼと町を歩いている間に、いろいろと行ってみたい場所も見つけましたし」
「では決定ですね」
そう言って、アウグストはタイプを打つスピードを速めた。マリアは、それがアウグストの仕事の一つであることを知っていたので、何も言わず黙って眺めていた。タイプを打つ音だけが部屋に響く。
と、アウグストがタイプを打つ手を止めてマリアに言った。
「マリー」
「は、はい!」
「もう部屋に戻っても構いませんよ」
「ぇ、はい、でも…」
アウグストに退室を促されても、今ひとつ決め兼ねてもじもじとするマリア。それを見たアウグストは椅子から立ち上がった。
「ぇ、ぁっ…」
アウグストはそのままベッドに座っているマリアの左に座り、右手でマリアの頭を撫でた。
そして微笑んで、言った。
「今日はお疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
マリアはまるで油の切れたブリキ人形のようにぎこちなく部屋を後にした。 マリアが部屋から出た後、アウグストは窓の外をゆっくりと眺めた。窓から見える空は青く、雲ひとつなく澄んでいた。
「空が…綺麗だ。でも、僕は…」
つぶやいたのは、聞こえなかった。