夜の華 鋼の盾 第1幕 第二場

夜の華 せつなに散りゆくものとして。
 鋼の盾 守るものを守るために。
 いつか貴方は 何処かへ向かうの?
そして私は 流れていくの?


そして 彼らは 今日も どこかで。


第1幕 第二場 ゲオルグエリーゼ ホールのラウンジ


 ホールの会場。大きなシャンデリアとワルツのリズムが優雅な雰囲気を醸し出している。パーティーが行われていて騒がしい場内。そこから少し離れたホールのラウンジ。


「…だから、ここまでお前がついてくることはねぇって言ってるだろうが」
「…何度も言わせないで。私もやるわ」
大きなシャンデリアの下。男と、それに従う女。
「…ったく、やっぱ引き受けるんじゃなかったか」
 体の大きなゲオルグの影に付き従う、エリーゼと呼ばれる彼女。体のラインに沿った細やかな薄紅色のイブニングドレス、手袋と、宝石をあしらった揃いのデザインの髪飾りと首飾りを纏い。
「…気持ちはありがたいと思っているの。でも仕事は貴方だけに任せたくはない。自分の分は確実にこなしておきたいから」
「それは、お前の《目的》にも関係してんのか?」
「それについてはノーコメント」
「…ふぅ。まぁ、別にしっかりやってもらえりゃ文句はねえけどよ、」
 それにしてもよくやるな、とゲオルグは思った。
 前回の任務は、正に重労働と言うより他なかった。常時神経を張り詰めての警護と情報収集。小競り合いも合わせて計8回の戦闘。普段から危険な仕事についてきたゲオルグ自身でさえも、今回の休暇を有り難く思ったほどだ。まだまだ経験の浅いエリーゼにしたら、その疲労や緊張はゲオルグの比ではなかっただろう。休暇を取り、やっと休めると思ったところへ、突然この仕事が舞い込んだのだ。休暇はその日程を半分以上消化し、体力的な疲れは取れているとは言え、完全な状態ではない事を自覚しながらも任務に携わろうとするエリーゼ。その行為は《上》への忠誠というよりも、なにか別のものを感じる。おそらくは《目的》の為なのだろうが、どこか焦っているように見える彼女の姿勢に、ゲオルグは思い詰めた彼女の思いを感じずにはいられなかった。そして、そんな彼女に仕事を任せようという《上》の意志が掴めなかった。
「…というより、アウグストの意志か」
「え?」
「アウグストだ。わざわざ休暇中の俺らに仕事を渡すなんざ、どうせろくな仕事じゃねぇと思ってたがよ、…そうか、なるほどな」
「…どういう事?」
エリーゼ。多分、この仕事はお前の為の仕事だ」
「ちょっと待って、それってどういう…」
 その途端、ゲオルグエリーゼの言葉を制し、鋭い視線で遠方を見つめた。
「…振り向くな。標的だ。窓越しに確認しろ」
 エリーゼは言われた瞬間、窓を見つめた。窓の反射で見えるホールの景色が映し出したのは、宴もたけなわな会場から出てきた3人の男。左右の男は同じような黒の平服だが、真ん中の男はそれよりも格の高い燕尾服を着ている。男達が群衆に紛れても、彼女の眼は彼らを追った。
「あの…今上の階段を降りた3人ね」
「真ん中の燕尾服は囮だな」
「右が本命ね」
「そうだ。お前は右を狙え。残りは俺がやる。…上手くやれよ」
そう言って歩き出そうとしたゲオルグを他所に、エリーゼは小さく吹き出した。
「冗談?」
 長方形に仕切られた窓から月が顔を覗かせる。その月光が柔らかくエリーゼを照らした。細い目で伺うゲオルグに、エリーゼは笑顔でこう言った。
「…仕留めるわよ」